理事長の部屋

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7月 ねむのき(合歓の木)

―ねんねん ねむの木 ねんころり、眠ってしまったのは誰?

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                    合歓の木の花

 東海地方の今年の梅雨入りは6月4日ごろとのことで、平年より4日ほど早かったそうです。いつもながら梅雨はうっとうしい季節、気分が滅入ってしまいます。特に6月初旬から中旬にかけては曇や雨の日が多く、自転車で郊外を走っていても、空はどんよりと暗く、西の山も雲か靄(もや)に覆われてみえません。広大な田園には早苗がすくすくと育ち、晴れていれば鮮やかな黄緑色に輝くはずですが、厚い雲の下では色も冴えません。そんな中、自宅近くを流れる小川の堤の合歓の木に花が咲きました。誰が植えたのか、大中小3本の木が並んで立っていて、毎年、梅雨時になると桃色の小さな花を咲かせてくれます。桃色と云っても色調は地味で余り目立たず、ふさふさと繁る緑の葉の間に隠れるように咲いています。

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                   大きく成長した合歓の木

そのため遠くからでは花の咲いていることが分からず、近寄ってみて初めて分かります。  
 合歓の木はマメ科ネムノキ亜科に属する陽樹です。陽樹とは、太陽の光をふんだんに浴びて生育する樹木で、合歓の木のほかにケヤキ、コナラ、イチョウ、カラマツ、アカマツなどが含まれ、しばしば高木となります。林や森が作られる時、最初に生育する樹木で、それぞれの樹が成長して大きくなりますと木陰ができるため、陽樹の若木は生育できません。

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              遠くの山を仰ぐ合歓の木

そこで登場するのが、生育するのに日光を余り必要としない陰樹です。ブナ、トチノキ、スギ、ヒノキなどが含まれますが、木陰でもどんどん成長することができます。したがって新しい林や森は陽樹が多く、時が経過するに従い陰樹が増えて行きます。

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 合歓の木の桃色の花は、遠くから見ますと朧げにぼやけてみえます。一見焦点が合っていないのではないかと錯覚するほどです。そんな合歓の木の花はどんな構造をしているのでしょうか。

 

 

 

たくさんの桃色の「おしべ」の間に、白くて長い「めしべ」がみえます

 
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「おしべ」の先端には小さな黄色の葯がみられます

「おしべ」の根元を包む花弁それぞれが一個の花です

 

 桃色の花の正体、それは花びらではなく多数の「おしべ」です。ブラシの毛のような桃色の「おしべ」がたくさん集まり、遠くからは花のように見えるのです。多数の「おしべ」に混じって白くて少し長い「めしべ」が散在します。花びら(花弁)は小さくて黄緑色をしており、「おしべ」の根元を包み込んでいます。 

 

 

 一つの花は、30数本の「おしべ」、1~数本の「めしべ」さらに小さな花弁から構成され、それが10数個寄り集まって全体として一つの花のようになって咲きます。それらの中にひときわ背の高い花(赤矢印)があり、そこだけに蜜が含まれていて甘い香りを放ちます。

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右の写真は一晩中雨の降った翌朝に撮影したものです。 雨に濡れた「おしべ」は、濡れた髪の毛のように一花ごとに束になってうなだれ、白い「めしべ」と背の高い花だけが残って立っています。

 

合歓の木の花の大部分を構成する「おしべ」は、糸のように細くゆらゆら揺れていることが多いため、ぼうっとぼやけているように見えるのでしょうか。

 

 

 合歓の木の葉は、夜閉じます。これを就眠運動と云い、オジギソウなどネムノキ亜科の植物が共通して有する性質です。オジギソウではさらに、手で触るだけでも葉を閉じることはご存知の通りです。下の写真をご覧ください。左は昼間、右は夜間撮影したものです。夜、葉は見事に閉じています。特に枝の先端の若い葉ほどよく閉じるようです。若い人ほどよく眠るということでしょうか。夜間葉を閉じる姿が眠っているようにみえるため、「眠りの木」から「ねむの木」になったと云われます。

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 ところで合歓の木の花も夜閉じるのでしょうか。右の写真は、群がって咲く合歓の木の花を、昼間(上)と夜明け前(下)に撮影したものです。昼間は花も葉も開いていますが、夜になると閉じるのは葉だけで、花は昼間と同じように開いています。眠りの木と云っても、眠るのは葉だけなのです。夜、小さな桃色の花だけが昼間と同じように開いている様子は、あたりがすっかり寝静まった暗闇の中で、

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赤ちゃんが ルンルンと目を輝かせながら興味深げにキョロキョロあちこち見回しているようです。

ねんねん ねむの木 ねんころり

 

赤ちゃんをあやすお母さんの手は閉じてしまって動きを止めています。赤ちゃんを眠らせる子守歌、眠ってしまったのは誰でしょうか。

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          合歓の木の赤ちゃん達は仲良くお月さまを見上げています

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ひとたび風が吹くとたいへんです。合歓の木の大きく長い枝は、ビユーンと風に煽られ地面にくっつくほど横に傾きます。

 

細い糸のような「おしべ」は、長い葉とともに風に吹かれるままに、たなびきます。

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山嵐のように髪の毛をなびかせた風の又三郎。小さな手のひらをいっぱいに広げ、風に向かって駈け出そうとしているようです。

 

 

 

 

 ねむの木といえば、ねむの木学園を想い浮かべます。昭和30年代、歌手として女優として人気を博した宮城まり子さん(1927年~ )が1968年に私財を投じて静岡県掛川市に設立した肢体不自由児のための療養施設です。まり子さん41歳の時で、今年で設立49年になります。ここでは、身体や知能に障害のある子供や、両親がいなかったり、家庭で養育を受けることのできない子供達が、生活教育を受けながら義務教育を終え、成人しても施設に残ることができます。

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     ねむの木こども美術館「どんぐり」

 まり子さんは、肢体不自由の子供達が絵筆を手にすると素晴らしい絵を描くことを初めて見た時、非常に感動したそうです。そこで子供達の個性を生かす絵画教育に力を入れ、毎年国内外の美術館や画廊で展覧会を開き、高い評価を受けています。確かに彼らの作品は造形的にも色彩的も純粋で個性的であり、見る人の心を楽しませてくれます。またコーラスや演劇、ダンスなどにも取り組み、数々の賞を受けています。
 ほかに施設の子供達が通う特別支援学校や、成人した子供達のための身体障害者療養施設、さらに、ねむの木こども美術館「どんぐり」や吉行淳之介文学館などがあり、併せて「ねむの木村」と呼ばれています。自分の後半生を50年の長きにわたって障害児教育のために尽くしてこられた宮城まり子さん、「だめな子なんてひとりもいない」まり子さんの言葉です。彼女の情熱とやさしい心に強く胸打たれます。

「ねむの木の子守歌」

                       美智子皇后陛下作詞、山本正美作曲

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ねんねの ねむの木 眠りの木
そっとゆすった その枝に
遠い昔の 夜(よ)の調べ
ねんねの ねむの木 子守歌

薄紅(うすくれない)の 花の咲く
ねむの木蔭(こかげ)で ふと聞いた
小さなささやき ねむの声
ねんね ねんねと 歌ってた

故里(ふるさと)の夜(よ)の ねむの木は
今日も歌って いるでしょか
あの日の夜(よる)の ささやきを
ねむの木 ねんねの木 子守歌

 

 美智子皇后陛下は、しばしばねむの木学園の展覧会へ足を運ばれ、まり子さんや障害児達を励ましておられます。皇后陛下は高校時代に「ねむの木の子守歌」という詩を作られ、それを読んで感動した山本正美さんが曲をつけました。吉永小百合さんや梓みちよさんが歌っていましたから、憶えてみえる方も多いと思います。皇后陛下のやさしいお心が伝わって来ます。ここ数年、天皇陛下と皇后陛下はご高齢にもかかわらず、パラオやフィリピンをご訪問になって戦没者を慰霊され、国内でも災害が起こるたびに現地へ赴かれて被災者を慰め励まされています。慰霊碑の前でも、被災者を見舞われる時にも、常に真摯で飾り気のないお姿をテレビで拝見する度に、辛苦な状況に置かれた人々を心の底から気遣われるお二人のやさしいお心を強く感じます。もちろん公務ということもあるのでしょうが、それ以上に人間としての「思いやり」に溢れたお姿に、改めて畏敬の念を深くしています。

 さて病院の話題です。今回は南医療センター医事課の皆さんを紹介します。医事課職員は現在11名で、外来係10名、入院係1名です。医事課では患者さんが安心して通院したり入院していただけるように、一人ひとりに対し丁寧な対応を心がけ、常に患者さんの視点に立って行動することを目標にして日々業務に当たっています。

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 主な業務内容ですが、第一に外来患者さんに対する「外来医事業務」です。  新患や再来患者さんの受付、保険証の確認、診療費の計算、会計や各種証明書の受付、発行などの業務です。次に「入院医事業務」で、入院患者さんの入退院手続きや入院診療費の計算を行います。 もうひとつ大切な業務として「保険請求業務」があります。会計窓口で自己負担額を除いた診療費の診療内容を1か月ごとに診療報酬明細書(レセプト)として作成し、社会保険や国民健康保険事務所へ提出して保険請求を行います。
 そして2年に1度行われる診療報酬改定時におきましては、早期から積極的に情報を収集して、保険点数や解釈の変更、法の改正などの改定事項を迅速かつ正確に把握し、医事課職員の全員が、改正点を正しく理解し情報を共有するように心がけています。
 当院では、昨年8月より電子カルテが導入されました。それに伴い医事システムも出来る限りIT化を進め、正確な会計計算や待ち時間の短縮に努めています。
 桑名南医療センター医事課は、常に患者さんの視点に立った真心、思いやり(忠恕)の精神、明るい笑顔での対応に心がけ、今後も患者さんの診療が快適で円滑に進みますように日々業務に励んでまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛(文、写真)

                 竹田恭子(イラスト)

 

 

 
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