理事長の部屋

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9月 ニラ(韮)

―タデ食う虫は好き好きですが、ニラ食う虫は、皆、好き好きです―

つゆ草を背景に咲き揃うニラの花

 9月に入り天候は少し落ち着いたようです。8月には9個も発生した台風も、9月には3個しか生まれていません(924日現在)。9月上旬西日本を襲った台風21号は、各地に強風と大雨による大きな爪痕を残していきましたが、甚大な被害を被った関西空港も二週間経過してほぼ全面復旧したとのことです。しかし同じ頃に起きた北海道胆振地震では、今なお多くの方が避難所生活を余儀なくされています。幸い家屋の損壊を免れた家庭でも、給油タンクなどの暖房設備が破損して使えなくなり、修理も間に合わず、厳しい冬を迎えるにあたって大きな問題となっているそうです。今年に入ってから大阪、北海道と相次いで起きた大地震、「次は南海トラフだ」と案じられている方も少なくないのではないでしょうか。何時起こってもおかしくない東南海大地震、「ああ今日も無事だった・・・」と、ふと胸を撫で下ろす毎日です。これから先もずっと地震の来ないことを祈るばかりです。

つゆ草

 そんな中、稲田では一毛作の稲の刈り入れが終わり、替わって二毛作の稲が黄色く色付いて来ました。畔や田圃の縁には、青紫のつゆ草、鮮やかな黄色のヒレタゴボウ、お姫様のように愛らしい玉すだれなどの野草が、あちこちで小さな花を咲かせています。今年目立つのは、ニラの白い花の群です。中華料理で食べるニラですが、畔や用水路の土手を白く飾っています。

 

 

ヒレタゴボウ

玉すだれ

 

 

 

 

 

用水路に沿った
畔を埋め尽くす
ように咲く
ニラ
の白い花

 

 

 

 

黄色い稲穂とよく調和するニラの白い花

 

 


真っ直ぐに伸びた長い茎に、真っ赤な
花が開き始めた彼岸花との相性も抜群
です

畔の土手を飾るニラの白い花 黄金色の稲穂と遠くの蒼い山によく映えます


   葉はすっかりお馴染みのニラ             春に咲く花ニラ

 

 ニラ(韮)は、ネギ属の多年草で、
その葉は緑黄色野菜として中華料理
などに使われ、葉ニラとも呼ばれま
す。原産は中国北部からモンゴル・
チベットあるいは日本とも云われ、
日本では古事記や万葉集にも記載が
あるほど古くから人々に親しまれて
来ました。道端や畔などでみられる
ニラは、初めからの野生種なのか、
栽培していたものが野性化したのか、
よく分かっていないそうです。
 ニラには、葉ニラのほかに黄ニラ、
花ニラなどの種類があります。この
中で花ニラは、ニラの花茎と蕾(つ
ぼみ)を食べるのですが、春に小さ

な可愛い花をつける花ニラとは種類
が異なります。春の花ニラはハナニ
ラ属の植物で、同じような匂いがし
ますが、毒があり食用にはなりませ
んのでご注意ください。
 ニラの花茎は高さ40cm前後で、そ
の先端の一点から多数の花柄が放射
状に延びて先に白い花をつけます。
全体では傘を開いたようになります
ので、このような花の咲き方を散形
花序と云います。

「おしべ」は6本、花弁は6枚あるようにみえますが、うち3枚は咢です

蕾(つぼみ)は外側から順次開いていきます

 面白いのは、ニラの花には多数の虫の集まることです。私が写真を撮っている間も、蜂や甲虫、蝶などが頻繁にやって来て、撮影の邪魔(?)をします。また右上の写真のように、花弁の根元に黒い糸くずかゴミのようなものが付着しているのをよく見かけます。昆虫の残していった糞かとも思いました。下はその一部(赤枠と黄枠部分)を拡大した写真ですが、黒、桃色、白黒の縞模様、翅のあるもの、無いもの、など実にいろいろな種類の虫が集まり、緑色の子房をかじっています。アブラムシなどの虫ですが、こんなに虫の集まる花はそんなに多くないのではないでしょうか。私達にとっては嫌な匂いでも、強く虫を惹きつけるものがあるのでしょうか。

そういえばキンモクセイの香りは、私達日本人にとってはこの上なく良いものですが、ヨーロッパの人達には敬遠されるそうです。「蓼(たで)食う虫も好き好き(すきき)」ということわざがあります。食べても美味しくない蓼は、ほとんどの虫が好まないのに、好んで食べる虫もいることから、人の好みはさまざまであるという意味です。ニラには、いろいろな種類の虫がたくさん集まって来て、皆、美味しそうに食べています。ということは、「ニラ食う虫は、皆、好き好き(すきき)」なのですね。

 ニラは、匂いは強いですが栄養価が高くスタミナのつく食材です。夏バテを防ぐためには「ニラレバ炒め」が欠かせないという人もいるでしょう。餃子にニラが入っていると、美味しさが引き立ちます。一方、最近のヘルシー志向により、肉を使わず野菜中心の精進料理の人気が高まっています。精進料理とは、仏教の戒律に基づいて殺生をせず煩悩を刺激しない食材を用いて調理される料理のことで、その特徴は、野菜や大豆などの食材を加工や加熱処理などをして食べることです。例えば大豆は、豆腐や油揚げなどに加工したり、発酵させて醤油、味噌、納豆などにして使います。野菜類はほとんど煮つけにしますが、そのためにはアク抜きなどの下処理をしなければならないことも多く、ここで培われた調理方法や技術が、和食の発展に寄与したと云われます。そんな野菜中心の精進料理ですから、栄養価の高い ニラも当然使われるものと思っていましたら、実はそうではないのです。精進料理では、殺生しないために動物性の肉を用いないことは分かりますが、ネギなどの匂いの強い野菜も使わないのです。匂いの強い野菜のことを葷(くん)と云い、ネギ、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ、ニラの5種を五葷(ごくん)と呼びますが、匂いの強い野菜は煩悩を刺激するために使ってはいけないのだそうです。煩悩から解脱して心の安寧を得るためには、刺激の強い食品を摂ってはいけないのでしょうか。

五葷と呼ばれる野菜

現代ではこれらの野菜は様々な栄養素に富み、健康で長生きするために食べることが推奨されています。私は毎日、五葷の野菜を当たり前のように食べています。特にネギは 大好物で、味噌汁、冷やっこ、うどん、そうめんなどの薬味として欠かすことができません。そのせいでしょうか、古稀を迎えるようになった今も、相変わらず煩悩に振り回され俗界をさまよっているのは・・・。

 NHKテレビで「やまと尼寺 精進日記」という番組を放映しています。そのダイジェスト版とでも云えるのでしょうか、「やまと尼寺 献立帳」という番組を時々見ます。3人の尼さんが、旬の野菜を上手に使って美味しそうな精進料理を作ります。ひとつのレシピを3分間で分かりやすく教えてくれるのですが、テンポの良い進行と尼さん達の会話が面白いので、私のお気に入りの番組です。舞台となっているのは、奈良県桜井市の山中にある音羽山観音寺というお寺だそうです。精進料理も食べさせていただけるとのことですから、一度行ってみたいと思っています。

午後、陽の傾きかけた頃に撮影したものです。ニラの白い花と、紅い彼岸花、それに桃色に光る金エノコロ(草)が群れて咲いています。いずれも個性的な野草の饗宴で、一種怪しげな雰囲気を醸し出しています。

 
 さて病院の話題です。本年5月1日に新病院が開院しましたが、その翌日から旧東医療センターの建物の1/3ほどを改修する工事が進められて来ました。9月の中旬には工事の大半が終わり、西棟として使えるようになりました。各階の配置を下図に示しますが、入院病床が79床増えますので、桑名市総合医療センターの病床数は、新病棟の321床と合わせて400床となります。これで当初計画した病床数が確保されたことになります。他にも幾つかの診療部門などが入りますので、各階ごとに上から順に概説します。

7:地域包括ケア病床38床が入ります。地域包括ケア病床とは、救急入院したり、手術などの治療を
        受けられた患者さんに対し、病状の安定した後、リハビリや退院支援などを行って、一日でも早
        く自宅へ復帰して生活できるように応援するための病床です。

6:急性期の患者さんのための病床で、これで急性期病床の病床数は、新病棟と合わせて362床(高
        度急性期病床も含む)となります。

5:理事長、副理事長、院長、看護部長などの役員の部屋や会議室などが入ります。

4:透析室が入りますが、新しい透析装置などの導入により設備も充実し、医師や看護師、臨床工学
        士などのスタッフも、皆大いに張り切っています。

3階:健診センターとリハビリテーション室が入ります。
            健診センターでは、常勤医師が私を含めて3人となり、非常勤の医師2人と力を合わせて3診体
        制で健診を行って行きます。胃カメラなどの内視鏡検査、肺CTなどのがん検診、生活習慣病予
        防のための栄養指導などに力を入れていきます。
            最近の医療では、脳卒中などの急性期の患者さんや、心臓の手術直後の患者さんでも積極的に
        リハビリテーションが行われています。地域医療包括ケア病床を開設したこともあり、リハビリ
        テーション室の役割はますます大きくなるものと期待されます。

2階:格段に人数の増えた医師や研修医のための居住
        スペースです。

1階:託児所とかリネン、洗濯室などが入ります。
            託児所は今まで3か所に分かれていましたが、
        ようやく一つにまとまり、これから本格的な活
        動が始まります。かねてからの念願であった病
        児保育もできるだけ早急に始めたいと考えてい
        ます。子育てしながら働くお母さんやお父さん
        を応援しようと、スタッフ一同張り切っていま
        す。

 
 桑名市総合医療センターも、ようやく新病院の全貌がほぼ整いました。今後も職員一同力を合わせて、少しでも良い病院となりますよう頑張りますので、よろしくお願い致します。

                                      平成30924
                    桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛 (文、写真)
                                   竹田 恭子(イラスト)

 

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