理事長の部屋

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7月:クサギ(臭木)

月:クサギ(臭木)

白い星、赤い星、流れ星、平安女房の見上げた星は?―

白い星のように咲くクサギの花。長く伸びた「おしべ」や「めしべ」が印象的です。

 今年の10月も変則的な天候でした。9月まで続いた猛暑の後、10月に入って徐々に涼しくなり、中旬を過ぎますと朝夕は寒いほどに冷え込み、このまま冬に突入するのかと思いました。ところが10月末から残暑がぶり返し、11月に入って全国各地で夏日となる地域が続出しました。117日現在、東京では夏日が3日を超えて過去最高となり、連休最後の5日(日)には、最高気温が熊本で30.0℃、大阪でも27.9℃など、全国100以上の地点で11月の最高気温の記録を更新しました。この記録破りの暑さが11月まで続くということは、11月まで夏が続き12月には冬になってしまうということでしょうか。日本の気候の特徴は、春夏秋冬がバランス良く巡り、四季の変化の美しいことにありますが、それが崩れて夏が長くなり、春と秋が極端に短くなるのでしょうか。この強烈な変化に、秋の草花たちもきっと戸惑うことでしょう。彼岸花に始まり、きんもくせい、萩、コスモス、すすきなどが次々と自分の出番を待って、秋晴れの青空の下、快い秋風に揺れながら、美しい日本の秋を演出してくれます。しかし短時間で一度に咲かざるを得ないということになれば、何と慌ただしく、風情を感じる余裕も無くなるかも知れません。そうならないことを祈るばかりです。

数本のクサギの木が集まって、いっせいに見事な満開です。

 さて7月の植物はクサギ(臭木)です。シソ科クサギ属の落葉小高木で、日本全国どこにでも普通にみられるそうです。実は私がこの木を知ったのは昨年のことで、それまではまったく知りませんでした。今年の7月、クサギを探しながらあちこち自転車で走っていますと、雑木林の縁や道端の藪の中などに「有ること、有ること」、今まで10年以上も走っている道沿いに次から次へと現れます。去年までも有ったはずですから、今まで何を見ていたのだろう、ずっと気付かずに過ごして来た、私の眼の節穴ぶりが恥ずかしくなりました。
 

 クサギは葉に独特の匂いがするため、「臭い木」からクサギ(臭木)となったもので、気の毒な名前の付けられた植物の一つです。私もクサギの葉を千切って恐る恐る匂いを嗅いでみましたが、確かにカメムシのような匂いがしますが、それほど強烈なものではありません。私の嗅覚が衰えたのかなとも思いましたが、ネットでも匂いは気にならないと言う人も多く、逆にピーナッツのように香ばしいと感じる人もいるそうです。

クサギの葉

 また若葉は茹でますと匂いが消えて、お浸しやあえ物などにして食べる地方もあります。さらに古くから葉や根は漢方薬としても用いられ、リウマチや高血圧などに効果があります。さらに花の方は臭いどころか芳香がして虫や鳥を誘います。しかも秋になりますと藍色の果実が実り、染料として用いられるそうです。このように良いこと尽くめのクサギ、どうしてこのような気の毒な名前が付けられたのでしょうか、どうしても敬遠し勝ちになります。もっと良い名前が付けられていたら、さぞかし誰からも愛されたことでしょう。残念でなりません。

 それでは、クサギの花の構造を見てみましょう。

 

 

 まだ花の咲かない頃、「つぼみ」のように見えるのは萼(ガク)で、その中に「つぼみ」が入っています。萼は初め緑白色をしていますが、徐々に赤みを増して来ます(写真右)。

 

 

 

 

 赤くなった萼は先端が5裂し、隙間から白く丸い「つぼみ」を付けた花筒(花弁の基部が互いに合着して筒状になった部分)が伸びて来ます(写真左、赤矢印)。

 

 「つぼみ」も5裂して細く長い5枚の裂片(花弁)に分かれ、白い星のように拡がります。「おしべ」は4本、「めしべ」は1本ですが、花冠(5枚の花弁の総称)に比べて異様に長いのが目立ちます。昔、漫画で見たことがあるような「口から火や水を噴く星」のよう

です。美しい花なのに何となくユーモラスに見えるのは、この不釣り合いに長い「おしべ」や「めしべ」のためと思われます。

 クサギは自家受粉を防ぐために、まず「おしべ」が成熟し、遅れて「めしべ」が成熟する、雄性先熟を行います。
 (A)開花直後。「おしべ」は花粉の放出を始めますが、「めしべ」はうなだれています。
 (B)しばらくしますと「めしべ」も直立しますが、その先端(柱頭)は開いていません。
(C)花粉の放出を終えた「おしべ」はうなだれ、代わりに「めしべ」の柱頭が二裂し受粉を開始します。

 秋になりますと、萼は内部に藍色の果実を包みながら赤紫色から鮮やかな濃赤色となって5裂して拡がり、中央に青紫色の玉を置く赤い星のようになります。

藍色の果実を包む赤紫色の萼

鮮やかな濃赤色の赤い星

 

 クサギによく似た植物でボタンクサギ(牡丹クサギ)があります。下の写真は我が家にある牡丹クサギの鉢植えで、昨年知人からいただいたものですが、今年も見事な花を咲かせました。クサギはシソ科クサギ属ですが、牡丹クサギはクマツヅラ科だそうです。園芸種として親しまれていますが、野生化しているものもあります。

我が家の鉢植えの牡丹クサギ

近くの藪で見つけた野生化した牡丹クサギ

満開の牡丹クサギ

 

花は外側の萼より開いて 行きます。

 

 

 

 

 クサギと同じように、「おしべ」が立っている間は、「めしべ」の柱頭は分かれていませんが、「おしべ」がうなだれますと、「めしべ」の柱頭は2本に分かれ受粉を開始します。

(写真右 めしべ:赤矢印、おしべ:黄矢印)

 

 

 星と言えば、名曲「昴すばる」を作詞、作曲し、自ら歌った谷村新司さんが108日に亡くなられました。享年74歳。194812月のお生まれということですから、私たちと同学年になります。大阪出身の谷村さんは、堀内孝雄さんらとアリスを結成し、「今はもうだれも」「冬の稲妻」「チャンピオン」など数々のヒット曲で人気を博しました。また「いい日旅立ち」「陽はまた昇る」「群青」「昴すばる」などの名曲を生み出し、幅広い世代の人達から慕われました。特に私は「昴」が好きでカラオケでの定番曲でした。「ああ さんざめく 名も無き星たちよ」と言う歌詞がありますが、「さんざめく」という言葉に、谷村さんの作詞家としての非凡な才能を感じます。「昴」は中国でも人気があり、谷村さん自身も上海音楽院の教授を務められました。スタンダードな名曲として永遠に残るものと確信しています。

 「すばる」という言葉から連想するものは、車、ハワイの天文台などいろいろありますが、まず思い浮かぶのは清少納言の枕草子です。

        (254)   星はすばる。ひこぼし。ゆふづつ。よばひ星、すこしをかし。

           尾だになからましかば、まいて。

                  (枕草子 清少納言 池田亀鑑校訂 岩波文庫)
 「星は、すばる(プレアデス星団)、ひこぼし(アルタイル)、ゆうづつ(金星)が素晴らしい。よばひ星(流れ星)も少し面白いけれど、尾が無ければなお良いのに・・・」というような意味でしょうか。当時尾を引く流れ星は、ハレー彗星のように不吉の象徴と信じられていたために、「尾が無ければ・・・」となったものと思われます。
 「すばる」、プレアデス星団は、「おうし座」を構成する星団です。私は高校時代、枕草子を読んで「すばる」に興味を抱き、天空を見上げて探したことがあります。星座のガイドブックに従い、まず見つけ易いオリオン座を探します。その右上方に目を向けますと、おうし座の中で最も明るい1等星「アルデバラン」が輝いています。その星が牛の右眼にあたり、さらに右上方に目を進めますと、あまり明るくありませんが小さな星が集まってぼんやり輝いているのが見えます。それが「すばる」です。ガイドブックにあった通り、私の眼にも6個見えたと思います。プレアデス星団には約100個の星が集まっていますので、望遠鏡で見るともっとたくさん見えるのでしょう。約6000万年前に生まれた比較的若い星の集団で、青っぽく見える星が多いそうです。

オリオン座とおうし座

おうし座

 

 ギリシャ神話では、大神ゼウスは白いウシに変身して美女エウロパに近づき連れ去ります。ウシとエウロパが走り回って辿り着いた先が、現在のヨーロッパということです。河を渡っていく牛の姿の上半身を形どったのが「おうし座」です。
 一方のプレアデスとは、ギリシャ神話で女神アルテミスに仕えたプレイアデス7人姉妹のことを指すそうです。中国では昴(ぼう)と呼ばれ、7つの星により構成される星座でした。日本では「六連星(むつらほし)」や「羽子板星」など地方によって呼び方が異なります。「すばる(統ばる)」は「すべる(統べる)」から由来して「統一されている」「一つに集まっている」ということを指すとも言われます。

 星が美しく輝く冬の夜空、久しぶりにすばる星団を探してみましょうか。すっかり衰えた老人の視力では、果たして何個の星が見えるでしょうか?

 
 もう新しいワクチンの接種は済まされましたか?私もつい先日7回目の接種を終えました。近いうちにインフルエンザワクチンも接種する予定です。新型コロナ感染も、今のところ小康状態です。SunPanSaの会も、現在、次にウクライナからお迎えする新しい傷病者の方の人選中で、大きな動きはありません。そこで今回は、コロナの話もウクライナの話もお休みに致します。
 一方、中東のガザ地区では、イスラエル軍の空爆や侵攻により子供を含む民間人に多数の死傷者が出ています。「また戦争! まだ戦争?」と心痛むばかりです。今、ウクライナやガザ地区、あるいはそれ以外の世界中の紛争地で戦っている兵士たちが、夜空に輝く満天のの星を見上げたら何を想うことでしょうか。

                       

                                 令和51110

                   桑名市総合医療センター理事長  竹田  寛 (文、写真)                
                                   竹田 恭子(イラスト)

 

 

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