理事長の部屋

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10月 エノコログサ

-お陽様に透かしてみれば、おぼろ効果に金と桃-

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             いきなり抽象絵画のようですが、これでも写真です

 今年のお彼岸は如何お過ごしになられたでしょうか。9月17日(日)九州鹿児島に上陸した台風18号は、四国、近畿、北陸、北海道と日本列島を縦断し、各地に大きな爪痕を残しました。東海地方には17日の夜最接近して雨風が強まり一時は緊張しましたが、夜半には静かになりました。幸いこの地方には大きな被害は無くほっとしました。翌日は敬老の日、朝から素晴らしい青空とやや強めながら快い風、まさに台風一過の青空です。台風の過ぎ去った直後、こんな清々しい天気になるのは何年振りのことでしょうか。午後、私は自転車に乗って今月の花であるエノコログサの写真を撮るために、野原へ出掛けました。小川の土手や田圃の畔(あぜ)には、彼岸花の真っ赤な帯が長く伸びます。稲刈りが終わり夏の花も消えて少し単調になった里山を、彼岸花の赤い帯が幾重にもなって美しく彩ります。真っ赤に咲く彼岸花を見て、「ああ、もう彼岸か!」と、いつの間にか夏が過ぎて秋に変わっていることを知らされる人も少なくないのではないでしょうか。彼岸に入ると一気に咲き、明けるとあっという間に消えてしまう彼岸花、どうしてこんなに時間に正確に咲くのでしょうか。まるで時を計ったかのようです。昔、高校の英語で‘punctual’という単語を習いました。発音は「プンクチュアル」ではなく「パンクチュアル」と読みますので、発音問題としてよく出ました。「時間を固く守る」とか「きちょうめんな」とかいう意味ですが、彼岸花を眺めていますと、いつもこの単語が浮かんで来ます。また「時間に正確」と云えば、Old Faithful (古くて忠実な)と名付けられた間欠泉を思い出します。米国のイエロー・ストーン公園にある世界最大級の間欠泉で、一度訪れたことがあります。ずっと昔から変わることなく、一定の時間間隔で規則正しく大量の熱湯を噴出して来ましたので、この名がつきました。 噴出する熱湯の高さは30~50mに達し、以前は45分間隔で正確に噴出していたそうですが、最近ではその時間間隔は長くなり不規則になっているそうです。さらに私の連想は、「おじいさんの古時計」へと続きます。1962年のNHK「みんなの歌」で「大きな古時計」として紹介され、2002年平井堅さんが歌って大ヒットしました。原曲は19世紀アメリカ人作曲家 ヘンリー・クレイ・ワーク(1832-84年)が創った「おじいさんの時計」です。「おじいさんが生まれた時に買って来た時計、百年間チクタクチクタク正確に時を刻み、おじいさんが死んだ時に止まってしまった時計」歌詞はそのような意味になるのでしょうか。ちなみに彼の作曲したジョージア行進曲は、日本では大正時代に替え歌「パイノパイノパイ」として歌われ大ヒットしました。彼岸、敬老の日と来て、つい「古くて忠実な・・・」ということに想いを巡らせ長くなってしまいました。さて本題の「エノコログサ」に入ります。
 高い青空の下、快く吹く秋風を演出する野草と云えば、まず「すすき」が想い浮かびますが、それに負けず劣らず演技上手なのがエノコログサです。猫じゃらしと呼んで子供の頃よく遊んだエノコログサの穂が、風に吹かれてブルブル震えながら、細く長い茎を地面にくっ付くほど倒れたリ、元に戻って直立したり、また反対向きに倒れたりして、刻々変化する風の流れを忠実に追いかけます。穂、茎、葉が一体となって描く風の軌跡は、澄んだ大気の渦のような流れを爽やかに表現します。
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 エノコログサは、イネ科エノコログサ属の1年草で、日本中どこでも見られます。漢字では狗尾草と書きますが、狗は犬のことで犬の尾の草の意味です。穂が犬の尻尾に似ているから「犬っころくさ」と呼ばれるようになり、それが転じてエノコログサとなったと云われます。エノコログサには幾つかの種類があり、厳密に区別することはしばしば困難ですが、ここでは私自身で確認できた4種、すなわちエノコログサ、アキノエノコログサ(秋のエノコログサ)、キンエノコロ(金エノコロ)、コツブキンエノコロ(小粒金エノコロ)を紹介します。

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     秋のエノコログサ

 
エノコログサ

                             エノコログサ

  小粒金エノコロ(と思われます)

 

 秋の野で一番多く目にするのが秋のエノコログサで、最も背が高く穂も大きいのが特徴です。茎は長さ40~160cmで少し傾き、先端の長い穂は垂れ下がります。 一方エノコログサは、秋のエノコログサに比べ小ぶりで茎の長さは20~70cm、穂も一回り小さく直立するか少し傾く程度で、垂れることはありません。
金エノコロと小粒金エノコロは、草丈はエノコログサと同じぐらいかやや低く、穂はさらに細くて直立します。穂の長いものと短いものがありますが、穂が短いから小粒金エノコロという訳ではありません。両者の区別に関しましては後で詳しく述べます。

 

 

 

 

 エノコログサの面白いところは、太陽の光に対し順光性(太陽の光を背に受けて)に撮影した場合と、逆光性(太陽の光に透かして)に撮った場合とでは、得られる画像がまったく異なることです。

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上の2枚の写真は、ある晴れた日の午後、まだ陽の高い頃、空き地にびっしり生えた秋のエノコログサを撮影したものです。上は順光性で撮影した写真で、穂を垂れた秋のエノコログサがひしめき合っていますが、穂や茎、葉は見えるままの色で写っています。その後すぐに反対側へ回り、逆光で撮影したのが下の写真ですが、様相が一変します。穂の見え方がまったく異なるのです。穂の細長い芯は暗くなり、まわりがハレーションを起こしたように明るく輝いています。

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一種異様な幻想的な光景です。 まだ陽の高い午後、同じ時刻に逆方向から撮影しただけなのに、どうしてこれだけ画像が変化するのでしょうか。 不思議なことです。そこでもう少し詳しく画像を眺めてみました。右の写真は、前ページの逆光の写真の中央部を拡大したものです。背景にある緑色の葉や茎はありのまま鮮明に写っていますが、光り輝く穂だけがぼやけています。まるで葉や茎を撮った写真の上に、光る穂を絵具で描いたようです。写真と絵画を合成した画像のように見えます。

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少し違った角度から撮影した逆光の写真ですが、穂の見え方が少し異なり周囲がそれほど明るくありません。同じ逆光でも、太陽の角度により穂の見え方が変化します。

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同じように逆光で撮った写真ですが、穂の色は、上では金色、下では桃色に輝いています。中段は両群の境界部あたりで撮影したもので、金色と桃色の穂が並んで光っています。この色の違いが金エノコロと小粒金エノコロなのです。そこで両者を詳しく比較してみました。

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     蛍光灯下での撮影

蛍光灯に透かして逆光で撮影

     蛍光灯に透かして逆光で撮影

(それぞれの写真で、左が金エノコロ、右が小粒金エノコロ)

 金エノコロと小粒キンエノコロの穂を肉眼的に観察しても、毛の色の金と桃は何とか分かりますが、蛍光灯に透かしますと、その違いは歴然とします。このように小粒金エノコロの毛は、一時期若い頃に桃色になり、成熟すると茶褐色になるようです。

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   金エノコロ     小粒金エノコロ

左の写真は、両者の穂を拡大撮影したものですが、小穂(しょうすい)と呼ばれる1個1個の粒々の大きさが、金エノコロより小粒金エノコロの方が小さいのが分かります。これが小粒金エノコロの名前の由来で、穂の長さには関係ありません。そこで4種のエノコログサの小穂の大きさと形を比較してみました(下図)。大きさでは金エノコロが一番大きく、意外なことにエノコログサが最も小さいのです。大切なのは小穂の形で、第2包穎(ほうえい)と呼ばれる種子を包む殻の長さに違いがあります。エノコログサでは、第2包穎が長く種子をすっぽり覆っていますが、秋のエノコログサ、金エノコロ、小粒金エノコロの順で第2包頴が短くなり、種子の裸出部分が大きくなります。

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 小穂を横から見た模式図

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エノコログサの種類を厳密に区別するためには、最終的には種子の形を調べることが決め手になるのですが、何しろ大きさが2-3mmほどの小さなものですから、野外で観察する場合にはルーペが必要になり、視力の衰えた私達には辛い作業です。

 

さて「太陽の光に透かす」と云うと、「手のひらを太陽に」という歌がありました。
手のひらを太陽に
                      作詞 やなせたかし 作曲 いずみたく

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 ぼくらはみんな生きている
 生きているから歌うんだ
 ぼくらはみんな生きている
 生きているから悲しいんだ
 手のひらを太陽に すかしてみれば
 まっかに流れるぼくの血潮(ちしお)
 みみずだって おけらだって
 あめんぼだって
 みんなみんな生きているんだ
 友だちなんだ    (2番略) 

 

 

作詞は、アンパンマンの生みの親であり、多数のヒューマニズムあふれる作品を発表し続けた漫画家で詩人、絵本作家であった、やなせたかし(1919-2013年)氏です。作曲は「見上げてごらん、夜の星を」「夜明けの歌」「いい湯だな」「女ひとり」ほか私達の誰もが口ずさむ数々の名曲を世に送り出した、いずみたく(1930-92年)氏で、最初に歌ったのは宮城まり子さん(1927年- )でした。みみずやおけら、あめんぼなど、どんな小さな生き物にも生命があり、生命は尊いものであるということを、軽快で親しみやすいメロディで歌っています。小学校の音楽の教科書にも載っていますし、2006年(平成18年)に文化庁とPTA全国協議会の選定した親子で歌い継ぐべき日本の歌100選にも選ばれています。ちなみに冒頭で述べました「大きな古時計」も選ばれています。私は子供の頃、雨の日の水たまりで、あめんぼがスイスイ水面を走るのを眺めるのが好きでしたが、最近とんと見なくなりました。
 私は放射線科医で画像診断が専門です。X線を人体に投射しますと、透過してくるX線の量は人体の各部により異なります。その現象をもとに画像を作成するのが、レントゲン写真でありCTなのですが、云えば太陽の光ではなくX線に透かして画像を作っているのです。コンピュータの導入により最近の画像診断は驚くほど発展しました。今回は紙面の都合で取り上げられませんでしたが、次回は新病院で新しく導入される予定の最新鋭のCTやMRI装置をご紹介致します。

 

平成29年10月
桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛  (文、写真)
竹田 恭子 (イラスト)