理事長の部屋

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1月:シクラメン

-白井選手も仰天、驚異の反転反り返り、でも失敗も・・・-
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 明けましておめでとうございます。昨年はいろいろお世話になりました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 
今年の元旦は穏やかな晴天でした。東海地区ではあちこちで初日の出を拝む人達で賑わったそうです。私は毎年元日の朝には郵便局へ出掛けます。消印の押された封書や葉書を収集している友人が九州にいて、元旦のスタンプを押した年賀葉書を送るためです。かれこれ20年以上続けています。私の住んでいる津市では、元旦に開いている郵便局は市の中心部にある本局だけで、郊外にある私の家から自転車で行きますと30分ほどかかります。朝8時30分頃家を出て、広大な田園地帯をまっすぐに伸びる細い道を走り抜けて行きます。初日の出を厳(おごそ)かに終えた太陽はすっかり高く昇り、緊張がほぐれたのでしょうか、穏やかに輝いています。青い空には真っ白な綿雲が二つ三つのんびり浮かび、風もありません。遠くの山々は、柔らかい陽射しを浴びて青緑色に照り返り、稜線の傾斜はいつもより緩やかに見えます。道の両側に拡がる田圃では、規則正しく耕された土が黒く光ります。畦道には枯れ草の間から春の緑の新芽が伸び始めています。遠くや近くに見える家々は整然と静まり、きっと家族団欒でお雑煮やお屠蘇を祝っているのでしょう。街中に入っても道路には時折車が走るだけで、歩く人影もまばらです。街路樹も揺れることなく、鳥の鳴き声すら聞こえません。嘘のような静けさです。昔東京で元旦を迎えたことがありましたが、同じように街中は静まり返っていました。寅さん映画の冒頭シーンのように、大都会でも地方都市でも山村でも漁村でも、日本全国津々浦々、同じように静かな朝です。1年で最も静かな朝、これが日本の元旦です。
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 さて今月の花はシクラメンです。シクラメンはサクラソウ科の多年草で、地中海を原産とし、明治時代末に日本へ持ち込まれました。サクラソウ科には、日本のサクラソウやプリムラ(西洋サクラソウ)も含まれます。
日本のサクラソウは早春を彩る可憐な花ですが、プリムラは寒い冬でも鮮やかな赤や黄や白あるいは紺色の美しい花を咲かせてくれます。
シクラメンをサクラソウやプリムラと較べますと花の形がずいぶん異なるため、同じ仲間であるとは意外に思われるかも知れません。一般にサクラソウ科の植物は、葉のない直立した茎の先端に美しい花をつけるのが特徴なのだそうで、その意味では共通した形態をしています。
シクラメンをサクラソウやプリムラと較べますと花の形がずいぶん異なるため、同じ仲間であるとは意外に思われるかも知れません。一般にサクラソウ科の植物は、葉のない直立した茎の先端に美しい花をつけるのが特徴なのだそうで、その意味では共通した形態をしています。

 
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プリムラ

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サクラソウ

 

 シクラメンの花弁は5枚で、大きく反り返るのが特徴です。その咲く姿を見て、明治時代の貴婦人(京都女子大学を創設した九条武子と云われています)が篝火(かがりび)のようだと言ったことから、植物学者の牧野富太郎が篝火花(かがりびばな)と名付けたと云われています。シクラメンは根に養分を蓄えて塊根となります。西洋では古くからこの塊根を豚の餌として利用して来ましたので、シクラメンのことを「雌豚のパン」と呼んでいました。それが日本に入ると「豚饅頭(ぶたまんじゅう)」という気の毒な名前を付けられたのです。
 ところでシクラメンの花の構造はどうなっているのでしょうか。花の内部を上から覗き込んでみますと、当然あるべきはずの「おしべ」や「めしべ」がみられません。底の方に裏返った萼(がく)のようなものがあるだけです。「おしべ」や「めしべ」はどこへ行ったのでしょう。そこで逆に下から見上げてみますと、中央部に先端の尖がった細い「めしべ」と、周囲にやや太くて短い「おしべ」を5本見つけることができました。

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上から覗き込んだシクラメンの花

 
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下から見上げたシクラメンの花

 
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不思議な構造ですね。どうなっているのでしょうか。シクラメンの花弁は、萼から出てまもなく180度反転して裏返っているのです。右の写真をご覧ください。花の中心部の断面像ですが、下向きになった萼から出た花弁は、赤矢印の部分で反転しています。それで上から眺めると逆さになった萼しか見えず、下から覗き込むと中央部の「めしべ」とそれを取り囲む「おしべ」が見えるのです。

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             篝火花(完全型)

篝火花(完全型)

 

 それではシクラメンの花弁はどのように反り返って行くのでしょうか。そこで蕾から花開き反転していくまでの様子を観察してみました。上の写真は約1日ごとに撮影したものですが、蕾が膨らみ始め、5枚の花弁が同一平面上で満開となり、ついで反転してひっくり返り、やがて篝火のようになっていきます。この一連の動作は、ちょうどオリンピック体操の白井選手の床運動を見ているようで、見事な反転宙返り、いや反転反り返りなのです。あるいはスキー・ジャンプのレジェンド葛西選手が両手両足を大きく拡げて大飛行している姿にもみえます。このように5枚の花弁が揃って反転した場合には、篝火型の花として完成します。ところがなかなかそうはうまくいきません。下の写真のように、5枚の花弁が反り返って行く途中で、1枚だけが茎に引っかかり停まってしまうことがあります(写真4日目、黄矢印)。すると篝火にはならず不全型に終わります。

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篝火花(不全型)

 

 このように失敗とも云える不全型がかなりの数あります。シクラメンの鉢をお持ちであればご確認ください。半数近くあると思います。自然界もたいへんなのですね。

シクラメンと聞けば、小椋佳さん作詞、作曲の「シクラメンのかほり」を思い浮かべる方も多いかと思います。布施明さんが歌って大ヒットし、1975年の第17回日本レコード大賞など数々の賞を受けています。

シクラメンのかほり
 作詞・作曲:小椋 佳

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真綿色した シクラメンほど
清(すが)しいものはない
出逢いの時の 君のようです
ためらいがちに かけた言葉に
驚いたように ふりむく君に
季節が頬をそめて 過ぎてゆきました                          

うす紅色の シクラメンほど
まぶしいものはない
恋する時の 君のようです
木もれ陽あびた 君を抱(いだ)けば
淋しささえも おきざりにして
愛がいつのまにか 歩き始めました

疲れを知らない 子供のように
時が二人を 追い越してゆく
呼び戻すことが できるなら
僕は何を 惜しむだろう
  
(以下、省略)
小椋佳さんは、日本を代表するシンガーソングライターで、若い頃は銀行に勤めながら作曲活動を続けていましたが、現在はプロの音楽家として活躍されています。代表曲に「シクラメンのかほり」のほか「愛燦燦(さんさん)」「俺たちの旅」「さらば青春」「しおさいの詩」「夢芝居」などたくさんあります。化粧品メーカーのCMソングに起用され人気を博した「揺れるまなざし」もその一つです。小椋さんの曲は、フォークソングやニューミュージックに分類されますが、私達が若い頃に熱中したフォークソングに較べると、都会的で洗練されており大人の雰囲気が感じられます。旋律の美しいことは云うまでもありませんが、詞の素晴らしいことも特筆されます。文章の組み立て方や言葉の使い方が実に巧妙で、天才的な言語感覚を持っておられると思います。そのため「白い一日」(作曲:井上陽水)や山河(作曲:堀内孝雄)のように作詞だけを担当した曲もたくさんあります。
「シクラメンのかほり」では、恋が芽生え、成就し、そして別離までを、それぞれ「真綿色」「うす紅色」「うす紫」のシクラメンに託して詠われます。恋の始まりの頃の嬉しさ恥ずかしさを「季節が頬をそめて過ぎてゆきました」と、また破局を迎えた後には「季節が知らん顔して過ぎてゆきました」と巧みに表現しています。「疲れを知らない子供のように 時が二人を追い越してゆく」という詞も新鮮で、はっと驚かされます。
  小椋さんの曲の中から、私の好きな詞をもう一つ紹介します。1975年中村雅俊さん主演で放映され人気の高かったテレビ番組「俺たちの旅」の主題歌で、その2番の歌詞です

俺たちの旅                           
作詞・作曲:小椋 佳

夢の夕陽は コバルト色の空と海
まじわってただ 遠い果て
かがやいたという 記憶だけで
ほんの小さな 一番星に追われて消える 
ものなのです

 海に沈んでゆく夕陽の一瞬の光景が、壮大なスケールで色彩豊かに描かれています。1975年と云えば私達が社会に出て忙しく働き始めた年です。その頃はテレビを見る暇が無く、この番組にも主題歌にも馴染みが薄かったのですが、今聴くと素晴らしい曲です。 私達より少し下の世代の人達の中には、懐かしい青春の思い出の歌であるという方も多いのではないでしょうか。
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シクラメンの花達は、冬の明るい陽射しをいっぱい受けて、その嬉しさを愛嬌たっぷり表現します。
 仲の良い「かもめ」のカップルが、翼を大きく拡げ大空を旋回しています。地上を窺っているようですが、何を見ているのでしょうか?

 

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空飛ぶUFOが怪しく  
光ります。

 

 

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おしゃまなフラミンゴの娘達は、少し「はにかみ」ながらカメラの前で並んでいます。

 

 

 

 

 

  さて病院の話題です。今年の最初を飾るのは南医療センターの放射線室で働く人達です。南医療センター放射線室では現在、男性3名、女性1名の計4名の診療放射線技師が診療を行っています。当センターにおける業務内容は、主として一般撮影とCTそれに心臓カテーテル検査です。それぞれの業務内容について簡単に説明致します。
● 一般撮影とはX線を使ったレントゲン撮影のことで、循環器を専門とする当センターにおいては、胸部の撮影が中心です。胸部レントゲン写真では、心臓の大きさを評価したり、肺炎や心不全などにより肺に異常が起こっていないか観察します。
● CTとはいわば回転型のX線装置で、体の回りを回転させることにより頭や体の横断像を作成します。現在の医療では、体内の様々な部位の病気を診断する上で欠かせない検査になっています。当センターでは主として頭部、胸部、腹部さらに下肢静脈などの撮影を行っています。また造影剤を注入してCT撮影を行うことにより、心臓にある冠状動脈を観察することができます(心臓CT)。冠状動脈は、心臓の筋肉へ血液を送っている大切な血管で、この動脈の壁にコレステロールなどが沈着して細くなったり詰まったりしますと、狭心症や心筋梗塞を起こします。心臓CTでは冠状動脈の内部や心臓全体の形状を立体的に観察することができ、心臓の病気を把握する上で有用な検査です。

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● 心臓カテーテル検査とは、心臓や冠状動脈の精密検査を行いま
す。カテーテルと呼ばれる長いストローのような管を、腕や足の動脈から挿入して大動脈内を押し進め、先端を心臓各室や肺動脈などに進めて内圧を計測します。また先端を冠状動脈へ進めて造影剤を注入しシネX線装置で撮影することにより、冠状動脈の状態を動画像として観察することができます。さらに冠状動脈が細くなっている場合には、カテーテルの先端に取り付けた風船やステントと呼ばれる筒状の金網を、細くなっている部分にまで進めて拡張する治療も行います。

 

 狭心症や心筋梗塞などの循環器疾患は、病態が時々刻々変化し、その診断と治療には一刻を争うほど迅速性が要求されます。夜間や休日でも頻繁に緊急検査や治療が行われ、その度に4人のうち誰かが駆けつけます。スタッフの皆さんは、1年365日交代で対応しているのですが、その尽力には深い敬意を表します
 放射線は人体に有害で、放射線検査は怖いと思っておられる方も少なくないかも知れませんが、適切に使用すれば安全に行うことができ、貴重な医療情報を得ることができます。放射線検査などに関し疑問や不安がございましたら、何でもお尋ねください。スタッフの皆さんも、患者さんの不安や苦痛を少しでも取り除き、安心して検査を受けていただけるように日夜努めています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛 (文、写真)
  竹田 恭子(イラスト)

 

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